婁燁(ロウ・イエ)監督作品は後からジワジワ効いてくる。
彼の作品は私にとってまさに「記憶に残る映画」なのだ。
南京の盲人マッサージ店で働くこの物語の登場人物たちの共通点は
視覚に頼らずに生きていくこと。
しかし生まれた時から視力を持たない者と事故などで視力を失ってしまった者
とでは視覚に対する価値感もその人生観も異なるだろう。
このマッサージ店に今はまだ視力があるもののいずれはそれを失うであろう
という境遇の女性がいた。
彼女が同じ職場のある1人の男性との結婚を望みこんなことを言う。
「教えてあげる。このマッサージ店で一番の美人はドゥ・ホン。
次は私よ。だから私を妻にするのは結構自慢できることなのよ」
しかしおそらく生まれながらに視力を持たない彼にとって
これは(たとえ事実だったとしても)全く価値を持たないことであろう。
美人ともてはやされるドゥ・ホンにとってもこれは同様で客たちから
美しさを褒められるたびにうんざりとした顔で「私には意味のないこと」と
つぶやく。
この美しい女性が持つ「苦悩」については詳しく語られなかったものの
うっすらと想像ができた。
彼らが語る言葉、独特の感覚にハッとさせられる。
彼らがただならぬ空気を感じる時にそれを「匂い」として感じるということ。
そして視力を持つ健常者は神のような存在にも思える、という言葉。
おかしな表現だと思う一方どこかでなるほど、と納得もできる。
近年のロウ・イエ監督作品で主演を演じ続ける秦昊(チン・ハオ)だが
本作では今まで全開だった色気を封印しての演技に魅せられた。
しかし封印してもかすかに漂う色気・・・これがまたよろしい。
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